2012年03月24日

「讃岐ラーメン」と「師弟関係」

「讃岐ラーメン」と「師弟関係」





讃岐うどんがブームになってから、日持ちする「半生うどん」、冷凍で送られる「生うどん」が、香川県内各うどん店がネット販売していて、全国の家庭でも、冷凍の「生うどん」ならば、香川県にいらっしゃって食べるものとほとんど変わらないものが食べられるようになっています。



本当に、便利な世の中になったと思っているのですが、香川県高松市で生まれ育った私にとっては、歩いて数分のところに製麺所やうどん店がいくつもありますので、このようなものを買ったことはないです。また、私の意識の中で、ラーメンは、麺が細いので、うどんよりは茹でるのが簡単なので、インスタント化もしやすかったと思うのですが、高松に住んでいると、インスタントの讃岐うどんなどは、絶対に食べたくないですね。味覚的にもそうなんだけど、金額的にも、讃岐うどん店や製麺所で生うどんを買ったほうが全然安いからなのです。



が、考えてみると、うどんとラーメンは材料が全く同じですから、うどんが美味しい香川県の製麺所の作るラーメンの麺は絶対に美味しいに決まっているのですが、香川県内の讃岐うどん製麺所では、打ち立てのラーメンも朝のうちに行けば食べられるのです。が、香川県民が1200年前から、ラーメンよりもうどんが大好きなので、製麺所もそんなにたくさんラーメンは作っていなくて、常連さんにしか売らない、裏メニューだったのです。



ところが、10数年ほど前、高松市中野町の「松下製麺所」が、ラーメンを表メニューにしたところ、たちまち人気が出て、全国のアンケートで10位以内に入ってしまいました。イリコだしが、魚介類のダシのひとつだったため、ラーメンのダシとしては、非常にヘルシーなものとして確立されたのでした。



しかし、ラーメンについては、博多と札幌が歴史も長く、鶏がらか、豚骨スープで、シナチクとチャーシューが載っているものが、全国的には、ラーメンだ、と認識されていましたので、香川県内でも讃岐ラーメンというブランドが確立される前に、札幌や博多のラーメンこそがラーメンだ、という常識が出来てしまっていました。



実際、香川県の讃岐うどん製麺所のラーメンは、あくまでも、麺のこしを楽しむもので、スープは、うどんと全く同じ伊吹島のイリコだしですし、シナチクもチャーシューも載っていません。讃岐うどんと同様、いろんな天麩羅を載せて、一味唐辛子、七味唐辛子、生姜をかけずに、天かすとコショウをかけていただくのです。



ところで、「松下製麺所」は、天かすが、ほかの製麺所や讃岐うどん店と違って、一番細かく、うどんをいただく時にも、かけうどんに載せた瞬間に、サッと溶けてしまうような繊細な天かすだったため、うどんを細い麺のラーメンに変えても、全く問題なく、人気が出たのです。



が、香川県民は、麺のこしを楽しむという姿勢で、讃岐ラーメンを食べましたから、こんな素晴らしいコシのラーメンの麺を、ラーメンのためにだけ使うのはもったいないと感じたので、かけうどんに、この素晴らしいコシのラーメンの麺を、天麩羅同様、トッピングするようになって、その結果、「松下製麺所」の一押しメニューの、ラーメンをトッピングしたかけうどんの、『ハーフアンドハーフ』が、自然に発生したのです。



高松に遊びに来た東京の友人を讃岐うどん店にご案内していて、一番呆れられる讃岐うどんのトッピングは、『金時豆のかき揚げ』、『甘く炊いた高野豆腐の天麩羅』と、『讃岐ラーメン』、なのです。



まあそうですよね。『金時豆のかき揚げ』や『甘く炊いた高野豆腐の天麩羅』なんて、ご飯に添えて食べても全然美味しくないですし、うどんにラーメンをトッピングするなんてことは、香川県外では考えられないことでしょうからね。



ところで、大学時代から25年間東京に住んでいた私は、「讃岐ラーメン」などというものは、この世に存在しないだろう、と、19年前の高松Uターン当時、感じていました。第一、シナチクもチャーシューも載っていないし、もやしも載っていないのですから、これを、ラーメンと呼ぶのには、いささか抵抗がありました。



が、まあ、朝、近所の「丸山製麺所」に行って、うどんを食べることがほとんどなのですけど、たまーーーに、ラーメンを食べたい時もあるので、そういう時には、「今朝は、ラーメンいたぁー。」(今朝は、ラーメンを下さい、という意味の讃岐弁)と言うと、顔見知りのおばちゃんが、「へぇー。」(かしこまりました、という意味の讃岐弁)と言って、出てくるのです。



値段も、かけうどんと同額で、170円ですから、香川県外の皆様は、ラーメンが一杯170円というのは、信じられないでしょうけど、何も載っていないのですから、適正価格なのです。



しかし、この、伊吹島のイリコだしのラーメンは、実にあっさりとした塩味で美味しいのですよ。うどんと全く同じダシなのですが、コショウをかけると、ラーメンになってしまうのです。トッピングは、私の経験では、アナゴの天麩羅か、金時豆のかき揚げ、が、「丸山製麺所」の朝ラーメンには合うなあ、と感じています。



しかも、讃岐うどん製麺所で作っているラーメンは少しなので、早朝に食べに行かないと売切れてしまうので、この「讃岐ラーメン」だけは、「讃岐うどん」がどんなにメジャーになっても、香川県に来て滞在しないと食べられないだろう、と私は思っていたのです。



しかし、なんと、東京の、「株式会社築地ばんや」というお店が、「楽天市場」の下記URLに、「どんまい」というお店を出して、「讃岐ラーメン」を大々的に売り出しましたので、私はびっくりしてしまいました。



http://www.rakuten.ne.jp/gold/donmai/index.html



既に、たくさんのレビューが集まっていて、伊吹島のイリコだしのラーメンが、とても好評なので、やはり、ここは、日本なんだな、と、再確認したところです。



ところで、JTが、最近、讃岐うどんを売り出したそうで、TVでコマーシャルをしているものを拝見して、笑ってしまいました。



東京在住の中年のお父様が、ある夜、自宅で「本場のうどんが食べたい。」とおっしゃるところから始まるCMです。



そして、翌日、奥様も子供達も一緒に飛行機に乗って高松空港に到着して、香川県まんのう町の、掘っ立て小屋のような老舗讃岐うどん店「やまうち」で、かけうどん(CMで見ただけでは、『あつあつ』か『ひやあつ』かは明確ではないのですが)〔200円〕を食べて感動して東京に帰るのです。



そして、その後、JTの出している讃岐うどんと出会って、「これならば香川県まで行かなくてもいいな。」と感動する、ストーリーになっています。



ものすごいCMなので、笑ってしまいましたが、ご家族全員の交通費を考えると、200円の「やまうち」の『かけうどん』を食べるために、大変な出費だったと思いますので、JTのうどんをおすすめしたいですね(笑)。



何がすごい、って、「やまうち」の店舗の建物が感動的に掘っ立て小屋なので、飛行機の中のシーン、東京のきれいなダイニングキッチンのシーン、と、決定的に対照的なので、絶対に印象に残るCMになっています。




「讃岐ラーメン」と「師弟関係」






ちなみに私が、「やまうち」まで食べに行くときには、うどんのこしが堪能でき、とても温まる『ひやあつ、のかけうどん』(高松市内の呼称では、「そのまま」、の、かけうどん)に、ここの甘みのある新鮮なすぐそばの畑で採れた生姜を、テーブルに置いているおろし金でたくさん摩り下ろして入れ、一味唐辛子を少し入れて、ものすごいボリュームの、「藤原屋」のゲソ天〔120円〕をトッピングして、たっぷり載せてくれる新鮮なネギと一緒にいただきます。計、320円ですから、香川県民としては高いなあ、と感じるお値段ですが、「やまうち」の開店時間は朝の9時で、閉店は、麺がなくなったときで、早いときは、昼前に閉店してしまいますので、朝8時半には到着するように、自動車で行きます。



「やまうち」は、香川県仲多度郡まんのう町大口1010、という、山奥にある、素晴らしい讃岐うどん店で、讃岐うどんのかけうどんの4種類(「あつあつ」=うどんが熱くてダシも熱いもの、「あつひや」=うどんが熱くてダシが冷たいもの、「ひやあつ」=うどんが冷たくてダシが熱いもの、「ひやひや」=うどんが冷たくてダシも冷たいもの)の命名と、エッジの立ったねじれたうどん、の発祥店として有名ですが、今でも火力の強い、薪で山の水を沸かしていることから、強こしのうどんが出来るのです。ですから、高松市に住んでいる私でも、年に1,2回しかゆかないほどの僻地にある、特別に美味しい讃岐うどん店なのです。



歴史をさかのぼると、「やまうち」オーナーの山内氏の師匠の、松岡さんのやっていた、既に閉店した老舗讃岐うどん店「まつおか」が扱っていた、蒲鉾店の、「藤原屋」の納品する、天麩羅、練り物のさつま揚げ、の中でもダントツに素晴らしいものが『ゲソ天』ですから、私は、このゲソ天を取るのです。



以上のように「やまうち」は、山間部にあるので、なかなか私も行けないのですが、「やまうち」で修行した方が、高松市上天神町の、これも非常にわかりにくいスポーツジムの地下駐車場を通り抜けないといけない場所に、「あたり屋」というお店をオープンしましたし、「やまうち」のオーナーの師匠の、今は閉店してしまった「松岡」のオーナーの松岡さんが、私の自宅近所のコープ扇町店の辛抱強い説得に応じて、「松岡」全盛期のうどんを1年がかりで再現して、冷凍うどんで売り出しましたので、今、高松市内では、加ト吉の冷凍うどんよりも、コープ扇町支店の冷凍うどんの方が、はるかに人気があって売れています。



「やまうち」、その弟子が高松に開店させた「あたりや」は、全て、「松岡」の系統の、エッジの立ったねじれた強麺うどんですし、トッピングの天麩羅は「藤原屋」に納品させることまで、師匠の教えを頑なに守っているので、これらのお店は、香川県内では、「松岡グループ」と呼ばれて愛されています。



もちろん、香川県には、この「やまうちグループ」以外に、讃岐うどん店「なかむら」のオーナーを大師匠と仰ぐ「なかむらグループ」、讃岐うどん店「渡辺」のオーナーを大師匠と仰ぐ「渡辺グループ」、など、いくつかの、老舗うどん店のオーナーとの師弟関係で結ばれているグループがあります。



私が讃岐うどん店を判断するとき、一番、間違いのない判断基準は、この、師弟関係なのです。師弟関係は、人と人のつながりですから、技術だけでなく、生き様、覇気、うどんへの限りない愛情、等の文化的要素が、その構成要素の全てで、そこに、お金のような煩悩が入り込む余地はないのです。21世紀、お金でつながっていた財閥が力を失ってゆく中、また、いつどこに地震が来るかもしれない状況下では、こういう熱い血の流れた「師弟関係」に基づく「グループ」こそが、100年後まで残る、かつての、三菱や住友のような財閥にも絶対に負けないグループになることは、間違いないと思っています。



こういった時代にあっては、人間力の中でも、一番大切なものは、一期一会を確実にする、感受性と、人間を好きになるヒューマニズム、なのです。




「讃岐ラーメン」と「師弟関係」





掲載写真は、順に、まんのう町「やまうち」の『ひやあつのかけうどん・藤原屋のゲソ天載せ』、JTのCMにも出てくる、まんのう町「やまうち」の掘っ立て小屋風の概観、高松市亀岡町「丸山製麺」の、早朝の、イリコだしの『讃岐ラーメン・金時豆のかき揚げ載せ』、です。









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この記事へのコメント
オカダ様

丸山製麺所の麺の写真を載せていただき、ありがとうございました。

最近、丸山製麺所へ行くとお店が閉まっていまして、とても悲しい思いをしています。

今まで、丸山製麺所には、大変お世話になりました。

丸山製麺所の方のこれからの人生が素晴らしいものとお祈りしています。

ありがとうございました。
Posted by 松村 訓明(まつむら のりあき) at 2013年05月08日 23:56
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